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「初の国産ソース」
初めて発売された国産ソースはヤマサ醤油が1885(明治18)年に発売した「新味醤油」だと言われています。
昔のソースはそのレシピがほとんど残っておらず、「当時の味」を再現するのは難しいのですが、この「新味醤油」は珍しくレシピが残っています。
というのもこの「新味醤油」、その年に始まったばかりの特許制度を利用し特許を取得しているのです。その時の資料が残っており、レシピがわかるというわけです。
特許は1885(明治18)年9月28日に出願され、わずか1ヶ月後の10月30日に「製造特許第53号」として成立しています。出願から成立までの期間の短さ、特許番号の若さから、まだまだ制度が始まったばかりであることがうかがえます。
この特許によると……、
名称:新味醤油
洋食和食共二調和シテ用ユ可キ極テ好味ナル新規有益ノ新味醤油ヲ発明セリ之ヲ左ニ明解ス。
此ノ新味醤油ハ日本醤油、西洋酢、蕃椒、胡椒、丁字、蒜、胡すい子ノ七品目ヨリ成ル乃チ其成分ノ割合ヲ掲クルコト左ノ如シ日本醤油1斗、西洋酢5斗、蕃椒1500匁、胡椒500匁、丁字400匁、蒜250匁、胡すい子150匁
此ノ醤油ヲ製スルニハ日本醤油ニ西洋酢、蕃椒、胡椒、蒜、胡すい子ヲ混和シテ大約2月間放置シ而シテ布袋デ以テ濾過スルモノトス。此ノ醤油ノ用法ハ西洋ノ「テーブルソース」ニ異ナラス牛肉或ハ魚肉等調理品ニ和スルトキハ鹹味ヲ増シ一種ノ芳香ヲ放チ食物ヲシテ一層美味ナラシムルノ効アリ
此ノ発明ノ専売特許ヲ請求スル区域ハ上文記載ノ如ク日本醤油、西洋酢、蕃椒、胡椒、丁字、蒜、胡すい子ヲ以テ製造スル新味醤油是ナリ
となっています。
ちょっとわかりやすく書いてみると、
日本醤油(醤油) | 1斗 | 18リットル |
西洋酢(酢) | 5斗 | 90リットル |
蕃椒(トウガラシ) | 1500匁 | 5625g |
胡椒(コショウ) | 500匁 | 1875g |
丁字(クローブ) | 400匁 | 1500g |
蒜(ニンニク) | 250匁 | 937.5g |
胡すい子(コリアンダ) | 150匁 | 562.5g |
ということになります(1斗=18リットル、1匁=3.75gだったとして計算)。
この「新味醤油」、現代のウスターソースとはまったく違う味わいで、レシピを見て想像していただけるとおり、「変わった味のする酢醤油」といった感じです。
この「新味醤油」、人々の口になじまず1年で製造を中止しています。
このアレンジ醤油調味料がどうして「初の国産ソース」とされたかは今のところ不明ですが、この調味料がアメリカのテーブルソースを目指して作られたこと、洋風の香辛料を使っていること、そしてアメリカで発売した時の名前が「ミカドソース」だったことなどからだと思われます。
「ミカドソース」の「ミカド」とは、現代の私たちから見れば、「ああ、天皇のことで、日本風の名前をつけることでオリエンタルな印象を与えたのだな」と考えてしまうのですが、実はその容器に命名の由来がありました。
この調味料はアメリカで陶器の三角形の瓶に詰めて売られました。
三角形⇒3つの角⇒ミカド ということから名前がつけられたそうです。